暇と退屈の倫理学 國分巧一朗

この本では、哲学の観点から「暇」と「退屈」が述べられています。

 

 

人類が遊牧から定住に生活様式を変えたことで起こった変化についての説明が特に印象的でした。

 

それまでの遊牧生活では、移動する度に環境に適用する必要があります。

 

どこで食べ物を獲得できるか?

水はどこにあるのか?

危険な獣はいないか?

 

こうした新しい環境に適用する中で、人の脳は刺激され活性化されました。

 

 

しかし生活様式が定住に変わると、その変わらぬ環境は人の脳を刺激せず、活性化された脳は活躍する場を失いました。

 

その活性化された脳が活躍する場として、工芸技術や政治経済、宗教や音楽が高度に発展してきました。

 

また遊牧生活では、死者を葬った後にその土地から離れていましたが、定住生活では死者を葬る場所として墓地が生まれ、死後の肉体との物理的な距離が近くなりました。

 

死後の肉体との物理的な距離が近くなったことにより、例えば「彼の身体は墓地にあるが、彼はどこに行ってしまったのだろう」といったように、生きている人間は死者のことを考えることが多くなり、それが霊や霊界といった概念の発生に繋がったと述べられていました。

 

 

この本の中では、人類が遊牧から定住に生活を背景についても述べられており、その内容も面白かったです。

 

従来の人類史観では、食糧生産の開始により定住生活が始まったことが通説でしたが、この本の中では、気候変動によって定住生活が開始され、その結果として食糧生産が始まった、とのことでした。

 

 

人類史から身近な概念である「暇」と「退屈」を述べた本書は、幅広い年代の方におススメの一冊です。