「あなたは人生の最後の日に何を語りますか?」というテーマで放送されたNHKの番組を一冊にまとめた本書。
生物学の研究者である福岡伸一さんの講演をまとめた一冊です。
著者は、生命を部分部分に分けて考える近年の風潮を機械的な生物論と呼び、それと対になる考え方を動的平衡な生物論と呼んでいます。
機械的な生物論では、生命は部分部分に分かれている前提に立っており、局所に問題が出ればそこだけ取り換えれば良いと考えます。
その考えは、臓器移植や局所をターゲットにした薬にも現れています。
例えば花粉症の薬。
花粉症の薬には、ヒスタミンという免疫を抑える成分が含まれています。
花粉に対する鼻水やくしゃみといった反応は、免疫によるものです。
この免疫をヒスタミンは抑えることで、鼻水やくしゃみといった花粉症の症状を取り除くことができます。
しかし、これは一時的な効果です。
時間の流れを考えると、時間が経つにつれで、抑え込まれた免疫は抑制された状態を乗り越えようと力を付けていきます。
その結果、花粉に対して免疫が過剰に反応し、花粉症の症状も深刻になってしまうのです。
生命は全体のバランスの上に成り立っているのに、部分部分に細分化して考えようとするからこういった弊害が出ると著者は述べています。
一方の動的平衡な生物論では、生命を時間の流れの中でバランスを保ち続ける存在と考えます。
人の身体は、一年も経つとほとんどの細胞が入れ替わります。
それでも同じ姿を保てるのは、細胞の入れ替わりが、ジグソーパズルの1ピースが外れて、また同じ型が当てはまるように、
細胞の入れ替わりを上手く繰り返しているからです。
それでは、なぜ生物は細胞の入れ替わりを行うのか。
それは、宇宙を支配するエントロピー増大の法則と戦うためです。
エントロピー増大の法則とは、秩序のあるものは、秩序のない方向に向かうというシンプルな法則で、
例えば、新築の建物が時間が経つにつれて古くなったり、熱々のコーヒーが次第にぬるくなったり、といった現象が当てはまります。
生命は、このエントロピー増大の法則に立ち向かうために、最初に頑丈に作ってなるべく傷が付かないよにする戦略ではなく、最初はゆるくつくっておき、それを分解・合成を繰り返しながら保つという戦略をとりました。
それゆえ、生物は傷ができたり病気になっても回復することができています。
このように、自身を壊し、作り変えることを繰り返しながらバランスを保つことから、動的平衡な生物論と名付けられています。
それでも、細胞を完全にコピーできるわけでなく、分解・合成を繰り返す中で段々と酸化物が溜まっていきます。
それが老化であり、それゆえ生物には寿命があります。
この本を読んで、生命の神秘性に気が付きました。
自分がここに生きていることは、奇跡的なことだと感じます。
生物学の知識のない自分にも非常に読みやすかったので、皆さんにおススメの一冊です。