宇宙からの帰還 立花隆著

本書は、宇宙飛行士が宇宙で時間を過ごすことによる内面の変化に着目した一冊です。

 

1961年、人類で初めて有人宇宙飛行を成し遂げたソ連ガガーリンは「天には神はいなかった」と述べました。

 

この言葉は、キリスト教国であり、大半がクリスチャンを占めるアメリカ国民にショックを与えました。

 

また、無神論国家のアメリカ・キリスト教文化に対する優位性を誇る挑発的な言葉であると捉えられました。

 

アメリカがソ連との宇宙開発競争に力を入れたのは、大国同士の国威発揚競争もさることながら、キリスト教文化の無神論文化に対する優越性を示す必要もあったためです。

 

その競争の代表選手である宇宙飛行士は、典型的なアメリカ人でなければなりませんでした。

 

今でこそ、黒人、女性、外国人、少数民族が宇宙飛行士に意図的に選抜されていますが、初期の宇宙飛行士たちが選ばれた時代では、そういう人々を排除し、典型的なアメリカ人が選ばれていました。

 

その背景から選ばれたのが、白人男性で信仰心の強いクリスチャンの宇宙飛行士でした。

 

その宇宙飛行士一人ひとりに行ったインタビューをまとめたのが本書です。

 

特に、信仰の変化に着目して対談が行わています。

 

ある宇宙飛行士は、宇宙からポツンと浮かぶ地球を見て、「この無力でか弱い存在が宇宙のなかで生きていることについて、これこそ神の恩寵だということが何の説明もなしに理解できた。神の恩寵なしには私たちの存在そのものがありえないということが、疑問の余地なくわかった。」

と述べていたり、

「月での活動中、自分のそばに神がいることがわかり、神への問いかけにもすべて答えてくれた。自分ではどうすればよいのかわからないとき、ヒューストンに判断を求めるのではなく、神に判断を求めた。」

と述べています。

 

この宇宙飛行士は、地球に帰還後にNASAを退職して、この経験を伝える伝道師として各地で講演を行って過ごしたそうです。

 

いまお伝えしたのは、信仰心が強くなった宇宙飛行士の例ですが、逆に信仰心が薄れた宇宙飛行士もいました。

 

この宇宙飛行士は、宇宙で時間を過ごすことで、宗教の細かな教義などどうでも良いと感じました。

 

「宇宙船が地球の周りを回っているときに地球を見下ろすと、あるときには、キリスト教が生まれた場所、あるときにはブッダが生まれた場所、というように、地球のそれぞれの地域で神様と呼ばれる存在がたくさんあることを実感した。そして、それが各地域ではもっとらしく見えても、宇宙から見ると、それが本当に神であれば、地域地域でバラバラなわけがない、と思えてくる。」

と述べています。

 

その宇宙飛行士は、各宗教は本質的に同じで、神の名前が違うだけであり、地球上の宗教間の対立がばかばかしく感じられ、地球に帰還した後に無神論者になりました。

 

 

この本を読んでみて、宇宙という日常から圧倒的に離れた世界は、自分の人生を振り返ったり、自分の世界観に影響を与える力が強いのだと感じました。

 

また、ガガーリンの「天には神はないなかった」という言葉がアメリカ国民の宇宙開発に対する意欲を向上させたとすると、NASAにとっては予算獲得という観点でプラスになったと思います。

そのため、ソ連というライバルの存在も、アメリカの宇宙開発に良い影響を与えたのだと思いました。

 

 

宇宙開発は最近活発になってきているので、そういった最新の情報もチェックしていきたいと思いました。

 

ここまで読んで下さりありがとうございました。